醜形恐怖症とは
醜形恐怖症は、自分の体について、他人からは気付かれないような外見上の欠点に囚われ、その囚われにより日常生活・社会生活に悪影響を及ぼす疾患です。「身体醜形障害」とも呼ばれています。初めは容姿に違和感を覚える程度ですが、次第にご自身の容姿を醜い、歪んでいると思い込むようになります。人の目に触れるか触れないかに関わらず、目、鼻、歯、唇、皮膚、頬骨、胸、体毛、肌の色など身体のどの部位でも対象となります。
醜形恐怖症は思春期の女性に多い?
有病率は男性よりも女性の方が高い傾向にあります。しかし、本人や周囲が気づいていないケースも多く存在し、実際はより有病率が高い可能性もあります。
発症年齢で圧倒的に多いのは15〜19歳の若年層です。急に症状を訴えるケースや、少しずつ外見に変化を感じ、段々と障害が現れるケースもあります。この場合、12〜13歳頃から症状が徐々に現れ、数年後に病気が発覚することも多いです。
思春期はこれまで慣れ親しんできた体が急速に成人に向かって変化する時期であり、これらの変化に心が追いつかないことが、醜形恐怖症の発症に影響を与える可能性があるのではないかとされています。
醜形恐怖症は自然に治る?
これらの症状による苦痛や不安が持続すると、統合失調症やうつ病などを合併する恐れもあります。症状が重篤化すると、自傷行為や自殺に至る恐れもあるため、早期治療が重要です。
醜形恐怖症の特徴・症状
他人から見て特に気にならない外見上の特徴をとても気にしてしまうことがあります。下記は醜形恐怖症の症状の一例です。
- 目の二重の左右差が気になる
- 頬骨の形が極端に変だと考えてしまう
- 顏が醜く「怪物のようだ」と信じ込む
- 髪の生え際が異様に気になる
- 胸の大きさや左右差などが異様に気になる
自分の容姿を何度も鏡で見る(対鏡症状)
対鏡症状は、精神症状の一つで1日に何時間も何度も鏡を確認し続けるといった様子が見られます。また、自分の姿を見るのを避けるなどの行動を取るケースもあり、この場合は自分が映るものを全て避けます。反射する物が存在する場所に近づかないようにする傾向も見られます。
鏡を集中して眺める行動パターンと、全く見ない行動パターンを交互に繰り返す患者様もいらっしゃいます。
醜い部分を隠す行動をとる
患者様によって隠す方法は異なりますが、外見にコンプレックスを感じる方は、整形などで根本的な修正を試みることが多い傾向にあります。
また、繰り返しファンデーションを重ねることや、何度も着替える、常にサングラスをかけるなど不安を取り除く行動に多くの時間をかける方が多いです。
前に述べたような行為をした結果、期待通りの効果が得られなかった場合、外出を取りやめたり泣き叫んで取り乱したりすることもあります。
筋肉に対する醜形恐怖
自分の体が弱々しく見えて醜いと感じる方もいます。この状態は筋肉醜形恐怖と呼ばれ、自らの体を過剰に鍛練し、筋肉を増やすためにステロイドを繰り返し使用したりするなどの症状が見られることがあります。
このようなケースでは、運動量や筋肉量がどれだけ増えても満足感を得られず過剰なトレーニングを継続して行うこともあります。
自分は他人から笑われている・蔑まれていると思い込む
自身の見た目が醜いために注目され、他人から笑われている、蔑まれていると思い込み、何時間も考え込んでしまうなどの症状が現れます。自然に生じる考えではなく、「その考えが頭に浮かんで強制的に考えさせられる」ものですので、自己コントロールするのは難しいです。他人と自分を比べて落ち込むこともあります。
人との交流を避ける
症状が悪化すると、外出時間が短くなり、全く外に出なくなることもありますので、醜形恐怖症は引きこもりのリスクが高くなる疾患とも言えます。
金銭的トラブルを起こす
欠点を修正しようとするあまり、ほとんどの収入を美容整形に費やし、整形依存に陥る可能性があります。一度満足しても次第に不安を感じ、「また整形したい」という気持ちが際限なく湧いてくるため、結果として生活費を賄えなくなり、整形費用のために借金をするなどの行動をとります。家族内の金銭トラブルから、家庭内暴力や自殺を仄めかすケースもあります。
摂食障害と醜形恐怖症の違い
摂食障害は、体重や体型に対する適切な認識が難しくなる疾患です。体重が減少しているのに「極端に太っている」という考えに囚われ拒食症や過食症などが起こります。自身の身体と客観的視点にギャップが生じる一方で、醜形恐怖症は摂食障害だけでは説明しきれない症状も含まれ、それぞれが異なる疾患です。
さらに、摂食障害では全身の悩みに加えて「身体の重さ」「お腹が満たされているような感覚」といった症状が出るのに対し、醜形恐怖症は特定の部位への不満が強くなります。そのため、体の感覚についての訴えはあまり聞きません。
関連性はあるものの、醜形恐怖症の患者様が摂食障害を併発することもあります。また、好発年齢も同様であるため、どちらが最初に発症したかについても、特定が難しいことが多いです。
醜形恐怖症の原因
はっきりとした原因は明らかになっていません。性格的要因やメディアの影響、思春期特有の自己像の揺らぎなどが複合的に絡んでいる可能性も考えられます。
虐待・ネグレクト
醜形恐怖症の発症には身体的・精神的な虐待が関係しているケースもあるとされています。親から何度も「太っているね」「鼻が低いから可哀想」と言われ続けると、その言葉が子どもの心に深く刻まれ、「自分は太っている」「鼻が低いから他人には受け入れられない」という思い込みが強まる傾向があります。
心理的トラウマ
以下のような辛い出来事に遭った経験を抱えている患者様も多いです。このようなことが直接的な原因となっているか、生まれつきの性格に加え、他者との交流が原因となっているかを明確にすることは難しいですが、様々な要因が組み合わさり発症につながることが考えられます。
- 好きな人に目の左右差を指摘されてショックを受けた
- クラスメイトに体毛が濃いとからかわれた
- 身長が高いことを理由にいじめられた
- 親に何度も鼻の低さについて指摘されてきた
うつ病
醜形恐怖症の患者様の約90%がうつ病を合併しているといわれています。醜形恐怖症を発症後、長引くことでうつ病が現れる場合と、元々うつ病を発症しており醜形恐怖症を発症するケースがあります。この場合はうつ病の治療を行うことで症状が和らぐことがあります。
また、遺伝的な要因ははっきりとは解明されていませんが、近親者にうつ病をお持ちの方の発症も多いと報告されています。
パーソナリティ障害
パーソナリティ障害の影響で醜形恐怖症を発症するケースもあります。
パーソナリティ障害は、認知や行動パターンに顕著な偏りが見られる障害です。境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害など、様々な分類が存在し、気分が不安定なため、醜形恐怖を感じる部分も変化しやすい傾向にあります。
完璧主義な性格
醜形恐怖症の方は、漠然とした「理想の容姿」「完璧な外見」をイメージされています。しかし、ご本人がこれを言語化することが難しく、具体的に何をしたら完璧な姿になれるのかを表現することが困難で、理想を追い求め続けますが、理想の姿には辿りつくことができません。
メディアの影響
美容医療の宣伝や、テレビや雑誌で「痩せた」「理想的な美しさ」を賞賛するメディアの影響が指摘されています。
醜形恐怖症の診断
醜形恐怖症の診断は、以下の基準に基づいて行われます。
- 些細なことに思える外見上の欠点に執着している
- 長時間鏡を見続ける、過剰な身繕い、何度も確認する、安心希求行動など繰り返し行う
- 自分と他人の外見を比較し、無力感や失望、強い不安を抱く
- 外見上の欠点に強く執着し、強い苦痛を感じているか、職場や学校、家庭内、人間関係などにおいて支障が生じている
- 摂食障害に関連する懸念とは異なっている
醜形恐怖症の治療
基本的には強迫性障害と同じ治療を行います。
薬物療法
基本的には抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を処方します。脳内のセロトニンという物質の働きを高めることで神経伝達をスムーズにし、不安や気分の落ち込みを改善させるのに有効です。
醜形恐怖症の場合は、身体への執着や不安、苦痛などの緩和が期待されます。また、患者様の症状や状態により、必要に応じて他の抗うつ薬や薬剤も併用します。
認知行動療法
個人の認知に焦点を当て、感情を和らげるための心理療法の1つです。強いストレスに晒されると、私達はますますネガティブな考えに囚われやすくなります。その結果、元々は対処可能だった課題でも、過度に捉えてしまうため解決能力が低下してしまいます。
自分の容姿に関する強い思い込みや些細な欠点に対する認識の歪みを少しずつ見直し、事柄を修正するプログラムを行い、認知の歪みを解消していきます。